オーケストラにおけるトランペットは、常に主役というわけではありませんが、要所で曲の印象をガラリと変える「決め手」のような存在です。
そのため、トランペットが大活躍する曲を聴くことで、その魅力や役割をより深く理解できます。
今回は、トランペットがオーケストラで映える代表的な曲をピックアップしてご紹介します。
はじめに:オーケストラ曲の聴き方
かつては、オーケストラの演奏を聴くにはCDを買ったり、演奏会に足を運ぶ必要があり、少しハードルが高いものでした。
しかし現在は、YouTubeなどの動画配信サービスを使えば、世界中のプロオーケストラの演奏を手軽に楽しむことができます。
中でもおすすめなのが、ドイツをはじめとしたヨーロッパ圏のプロオーケストラの演奏です。曲名を英語やドイツ語で検索すると、再生回数の多い高品質な動画が見つかりやすくなります。
長い曲でも大丈夫!気軽に楽しもう
オーケストラの曲は長いものが多く、これから紹介する曲も40〜50分前後の作品ばかりです。
「そんなに長い曲を全部聴けない…」という方でも大丈夫!
好きな楽章だけ聴いたり、作業用BGMとして流すだけでも十分楽しめます。YouTubeでは、概要欄に楽章ごとのタイムスタンプが書かれていたり、コメント欄で誰かがタイムスタンプをシェアしてくれていることも多いので、ぜひ活用してみてください。
もちろん、最も良いのは生の演奏を聴くことです。ホールで体感する響きや迫力は、動画や音源では味わえない特別な体験です。気になる楽団や曲があれば、思い切って演奏会に足を運んでみることをオススメします。
オススメのオーケストラ曲
それでは早速、トランペットが活躍する曲を紹介します!
①マーラー:交響曲第5番
「トランペットが有名なオーケストラの曲は?」と聞かれたときに、真っ先に挙げられる曲の1つです。
マーラー作品のトランペットは、どれも大変な代わりにとても活躍するものが多いです。
特に有名なこの曲は、冒頭から(0:55から)トランペットのソロで始まるという強烈なインパクトを持っています。
第1楽章はまさにトランペットの見せ場。冒頭のファンファーレがこの曲の象徴の一つとも言えます。
②チャイコフスキー : 交響曲第4番
チャイコフスキーの代表的な作品です。交響曲第4・5・6番はチャイコフスキーの代表作として有名ですが、筆者としては4番が特にお気に入りです。
この曲は4楽章構成で、冒頭(第1楽章)にホルンの印象的な導入の後、トランペットによる力強いファンファーレが登場します。
このモチーフは第1楽章と第4楽章で繰り返し現れ、曲全体の重要なテーマとなっています。
トランペットが要所で華やかに登場し、聴きどころ満載です。
全体として吹きごたえがあり、体力的にしんどいですが演奏する楽しさを存分に味わえる一曲です。
時間がない人は、冒頭と第4楽章(36:44から)だけでも聞いてみてください。第3楽章(30:55から)も聞きやすくてオススメです!
③チャイコフスキー:交響曲第5番
前述のとおりチャイコフスキーの交響曲第5番は、交響曲第4番・第6番と並び、彼の代表作とされています。
この曲は全体的にドラマチックな展開がありながらも聴きやすく、クラシック初心者にもおすすめできる「万人受けする名曲」といえます。楽章ごとの個性もはっきりしていて、どこを切り取っても印象的なメロディが楽しめます。
第2楽章(15:13から)のホルンソロが有名ですが、第1楽章のトランペット登場部分(4:15あたり)や第4楽章のクライマックス(44:15あたり)あたりは是非聞いてみてください。
④ドヴォルザーク:交響曲第8番
ドヴォルザークはチェコの田舎を彷彿とさせる、明るく親しみやすい旋律が多い作曲家です。
一番有名な曲は交響曲第9番「新世界より」で、オーケストラに興味がなくても、2楽章や4楽章は誰しも聴いたことがあると思います。
しかしトランペットがよりかっこ良いのは、この交響曲第8番です。交響曲の中では9番に次いで良く演奏されます。
全体としてトランペットが印象的な旋律を担当し、第4楽章冒頭(28:00あたり)ではトランペットだけで演奏する場面があります。
高い音がなく休みも多いので、トランペット奏者的に演奏しやすい曲ともいえます。
⑤ショスタコーヴィチ:交響曲第5番
ショスタコーヴィチは、スターリン体制下のソ連の作曲家です。
ショスタコーヴィチ自身は当時の体制に批判的な立場でしたが、公にソ連を批判すると粛清されてしまう時代でした。実際に彼の友人で、ソ連を批判した詩を書いた詩人が処刑されたそうです。そのような時代を生きていたためか、ショスタコーヴィチの作品は重々しいものが多く、聴いていて疲れる曲が多いです。
ただし例外的に、この交響曲5番は比較的聴きやすくなっています。というのもこの作品はソ連を讃えるために作られた曲なので、当時のソ連でも絶賛されたそうです。
しかし、ショスタコーヴィチはこの曲の中に、ソ連体制を批判するメッセージを随所に込めています。例えば2楽章(28:00から)は3拍子のワルツですが、たまに4拍子を挟み込むなど、民衆が無理矢理踊らされている様子を表現しているそうです。
トランペットとしては、特に4楽章冒頭(38:15から)や途中のトランペットソロ(40:40あたり)、最後のファンファーレ(48:55あたり)などが印象的です。ちなみに3楽章はトランペットはタチェット(休み)です。
隠れたメッセージが込められている交響曲第5番ですが、とりあえずは深く考えずに、純粋に曲を聴いてみると良いと思います!
⑥ベルリオーズ:幻想交響曲
ベルリオーズはフランスの作曲家で、本作品は彼の代表的な作品です。トランペットパートとしては、コルネット2管、トランペット2管の4管編成です。
2楽章(16:25から)はコルネットあり版(コルネット版)となし版(通常版)があります。トランペット奏者的には、断然コルネット版がオススメです!初演は通常版でしたが、当時のコルネット名奏者アーバンが出演した演奏会でコルネット版が演奏されたそうです。
ちなみにアーバンの教則本は、現在でもとても有名です。
4楽章「断頭台への行進曲」(40:15から)は有名なので、聴いたことがあるかもしれません。明るい曲調とは裏腹に、タイトルの通り主人公が処刑されようとしている場面で、5楽章(47:10から)は亡霊たちが現れる世界観が表現されています。
1楽章の後半まで休みだったり、3楽章はタチェットなど、トランペットが暇な場面は多いですが、逆に演奏箇所はとても楽しく聴くことができると思います!
⑦リムスキー=コルサコフ:シェヘラザード
リムスキー=コルサコフはロシアの作曲家で、本作品は千夜一夜物語(アラビアンナイト)の語り手であるシェヘラザードの物語をテーマとしています。
アラビアン・ナイトの東洋の世界観が広がる曲です。4,50分ある曲は、だいたい聴くのがしんどい箇所が出てくるのですが、個人的にこの作品は比較的聴きやすいです。
トランペットだけでなく、各パートのソロが目立つ曲です。トランペットは特に4楽章(32:50から)のタンギングが大変で、中でもトランペットとスネアドラムだけでリズムキープするタイミング(38:25あたり)があります。カッコいいですが技術力が試されます。
⑧リヒャルト・シュトラウス:アルプス交響曲
この作品はタイトルの通りアルプスの山をテーマにした交響曲で、作曲者のリヒャルトシュトラウスが実際に登山をしたときの体験に基づいて作曲されました。
夜明けから始まり、山頂、雷雨、そして再び夜へと至る全22場面・約50分超の大作です。全体の編成も大きいため、アマチュアで演奏できる楽団は少ないと思います。
トランペットは4管編成で、バンダ(ステージ外の金管)も2管いて、ステージ裏から演奏(07:40あたり)します。全体を通して演奏が高難度で、特にHiDまであるソロ(21:08あたり)は印象的です。
⑨ストラヴィンスキー:火の鳥
バレエ音楽として有名な作品です。
版によって曲の長さや編成が異なります。動画で紹介しているのは1919年版で、最も演奏機会が多く、トランペットは2管編成です。
ストラヴィンスキーの曲は難しい曲が多いですが、この曲は比較的取り組みやすいです。ただやはり簡単ではなく、トランペットは大変です。
「カスチェイ一党の凶悪な踊り」(10:12から)が有名で聴き応えがあります。また「終曲」(18:32あたり)も感動的です。
⑩ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲「展覧会の絵」
ムソルグスキーのピアノ原曲で、オーケストラ版はラヴェルが編曲したものが有名です。
この曲は、絵画の印象を表現した複数の曲と、それらの絵画を巡回する「プロムナード」で構成されています。
「プロムナード」(冒頭00:01)や「キーウ(キエフ)の大門」(27:04あたり)は、クラシックに詳しくない人でも聴いたことがあると思います。「キーウ(キエフ)の大門」はテレビ番組「何これ珍百景」でもお馴染みです。
トランペットは3管編成です。1stはソロが多く、特に冒頭の第1プロムナードはトランペット1人だけのソロで始まるのでとても重要です。途中ピッコロトランペットとの持ち替えてのソロ(16:48あたり)もあるなど、全体として1stの負担が大きい曲になります。
まとめ
トランペットが目立つオーケストラ曲を紹介しました。
本当はまだまだ沢山あるので、是非ご自身でも色々聴いてみてください!